歯科訪問診療料:個別指導で指摘されない運用と書類作成
三輪 俊太歯科医師公開 2026.09.19更新 2026.10.08
この記事で分かること
歯科訪問診療は、訪問して診れば算定できるわけではありません。算定の要件の多くは、診療録と書類に残っているかどうかで確かめられます。個別指導で指摘されることが多いのは、主に次の3つです。
この記事では、令和8年6月からの条文と、東海北陸厚生局が公表した令和6年度の指摘事項を元に、個別指導で指摘されない訪問診療の運用とカルテ記載についてまとめていきます。
前提:どの患者さんに算定できるか
- 在宅等で療養していて、疾病や傷病のため通院による歯科治療が困難な患者さんが対象です(通知(1))
- 診療は屋内で行った場合に限られます。患者さんが建物の外に出る訪問診療車は使えません
- 医療機関と患家の距離は16キロメートル以内が原則です。超える場合は、その医療機関から訪問する絶対的な理由が必要です(通知(35))
- 在宅療養支援歯科診療所1・2の届出をしていない医療機関は、歯科訪問診療を始める月の前月までに、注16の基準を満たす旨を届け出ます(通知(2))
東海北陸厚生局の指摘事項にも、「傷病のため通院による歯科治療が困難な患者に該当していない」つまり、通院困難と明確にカルテ記載していない患者さんに算定していた例が挙がっています。
ポイント1 治療計画の立案
条文はこうなっています(通知(22))。
- 初診の期間の1回目の歯科訪問診療で、患者さんの病状に基づいた訪問診療の計画を定め、その要点を診療録に記載します
- 患者さんや看護に当たっている方から急に求められて、初めて訪問した場合は、2回目の訪問までに要点を記載します。これは令和8年度の改定で加わった但し書きです
- 2回目以降に計画を変えたときは、変更の要点を診療録に記載します
- 2回以上続く見込みのときは、次の診療日までに計画書を作り、その写しを診療録に添付する方法でもかまいません
指摘事項には、「第1回目の歯科訪問診療の際に、訪問診療の計画の要点を診療録に記載、または計画書の写しを診療録に添付していない」が挙がっています。診療録の記載についても、「画一的に記載している、または記載の不十分な例」として、訪問診療計画の要点が名指しされています。
計画に何を書くかは、歯科訪問診療料の通知には定めがありません。参考になるのは、歯科疾患在宅療養管理料の管理計画です。そちらの通知(2)では、全身の状態(基礎疾患の有無、服薬状況等)、口腔の状態(口腔衛生状態、口腔粘膜、口腔乾燥の有無、歯科疾患、有床義歯の状況、咬合状態等)、口腔機能の状態(咀嚼、摂食・嚥下、構音、食形態等)、管理方法の概要、必要に応じて実施した検査結果の要点が挙げられています。訪問診療の計画も、この並びで書くと過不足が出にくくなります。
Ihana訪問歯科グループでは、要点をカルテに書くだけでなく、計画書を作って写しをカルテに添付するようにしています。計画書があると、患者さんやご家族への説明にも、指導の場での説明にも、同じものが使えるためです。
歯周病継続支援治療は、令和8年度の改定で歯周病安定期治療(SPT)と歯周病重症化予防治療を統合し、改称した区分です。特に歯周病継続支援治療に移る際には、管理計画書を発行し患者または家族の同意を得ておきましょう。
ポイント2 診療録の記載と切削器具
必ず記載しなければならないポイントは以下の通りです(通知(28))。
| 記載すること | 補足 |
|---|---|
| 実施時刻(開始時刻と終了時刻) | 補足実態と合っていること |
| 訪問先名 | 補足開始した日に記載し、変わったらその都度書き直す |
| 患者さんの状態等 | 補足急変時の対応の要点を含む |
指摘事項では、実施時刻が実態と異なっていた例と、実施時刻や患者さんの状態等の記載が画一的・不十分だった例が挙がっています。同じ文言を並べるのではなく、その日の状態を書くことが求められています。
切削器具については、通知(1)に「歯科訪問診療料は切削器具を常時携行した場合に算定する」とあります。急性症状が出たときにすぐ対応できる環境を整えておくため、という理由がそのまま書かれています。指摘事項にも「切削器具を常時携行していない」が挙がっています。
令和8年度の改定では、1人の患者さんを診ている最中に、同じ建物の別の患者さんから急に求められて診療することになった場合、理由を診療録に記載すれば2人とも歯科訪問診療1を算定してよい、という取り扱いが明確になりました(通知(9))。切削器具を持っていくことは、歯科訪問診療料算定の条件になりますし、患者さんの救急対応のためにも必要なことになりますので、必ず持参するようにしましょう。
ポイント3 施設などへの書類の提出
歯科訪問診療2から5を算定し、在宅療養患者以外の患者さんを訪問した月は、次のことが必要です(通知(41))。
- 訪問した日時と、訪問診療を行った歯科医師の氏名を書いた文書を、患者さん・ご家族・介護施設の職員等の関係者のいずれかに渡します
- 渡した文書の写しを、医療機関に保管します
- 同じ施設で同じ月に複数回算定したときは、渡し先を明確にしたうえで、施設を単位とした一覧表で作ってもかまいません
「在宅療養患者」は、令和6年の通知では、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの入居者と、短期入所生活介護や認知症対応型共同生活介護などの利用者を除いた患者さん、と定義されていました。令和8年の通知にはこの定義がないため、この記事では令和6年の定義で読んでいます。
厚生労働省の保険診療確認事項リスト(歯科)にも、この文書を誰にも渡していない例と、写しを保管していない例が挙がっています。
文書に決まった様式はありません。条文が求めているのは日時と歯科医師の氏名なので、次のような形になります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 訪問した日時 | 書き方の例2026年◯月◯日 14:10〜14:35 |
| 歯科医師の氏名 | 書き方の例歯科医師 ◯◯ ◯◯ |
| (任意)治療内容 | 書き方の例上顎義歯の調整、疼痛部位の確認 |
| (任意)注意点 | 書き方の例義歯は食後に外して洗浄、痛みが続くときは連絡 |
日ごとに出しているのは、施設の職員の方が、次にどう見ればよいかをその日のうちに知ることができるからです。毎日出すと事務の手間は増えますが、記録を作るところをDXで減らしています。
まとめ
条文として必要なことと、Ihana訪問歯科グループの運用を分けると、次のようになります。
| 条文として必要なこと | Ihana訪問歯科グループの運用 | |
|---|---|---|
| 計画 | 条文として必要なこと初回に計画を立て、要点を診療録に記載(急に呼ばれた初回は2回目まで)。変更したら変更の要点を記載 | Ihana訪問歯科グループの運用計画書を作り、写しをカルテに添付。治療の完了・新しい治療・歯周病検査のときに書き直す |
| 診療録 | 条文として必要なこと実施時刻・訪問先名・患者さんの状態等を、個々の症例に応じて記載 | Ihana訪問歯科グループの運用その日の状態を書く。画一的な記載にしない |
| 切削器具 | 条文として必要なこと常時携行した場合に算定 | Ihana訪問歯科グループの運用削る予定のない日も、小型の切削器具を必ず持っていく |
| 書類 | 条文として必要なこと2〜5等は、月ごとに日時と歯科医師名の文書を渡し、写しを保管 | Ihana訪問歯科グループの運用訪問した日ごとに、治療内容と注意点を書いた診察記録を出す |
出典
- 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(令和8年3月5日保医発0305第6号)別添2 歯科診療報酬点数表に関する事項
- 令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】(厚生労働省保険局医療課・令和8年3月5日版)
- 令和6年度に実施した個別指導において保険医療機関(歯科)に改善を求めた主な指摘事項(東海北陸厚生局)
- 保険診療確認事項リスト(歯科)令和3年度改訂版(厚生労働省保険局医療課医療指導監査室)
この記事を書いた人
三輪 俊太
Ihana訪問歯科グループ 代表
- 歯科医師
- 日本補綴歯科学会専門医
- 日本老年歯科医学会認定医
- 日本在宅医療連合学会会員
大阪大学歯学部卒業、同大学院博士課程修了。義歯・栄養・多職種連携を専門に、Ihana訪問歯科グループで訪問診療にあたっています。歯科医療者向けの教育事業(IhanaAcademy)を主宰し、学会・研修会での講演も行っています。